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人の手が及ばぬ森の終わりには国境にあたる山岳が臨めた。
雨は止まない。行く手は湿気に霞んでいる。岩壁に組み込まれた小屋は辺りの景色に欺かれる。
扉越しに掴む気配。錠前を叩き壊し、押し入った。小屋内は暗く、灯火が立てられていなければ、人も物も見分けられなかっただろう。雑多な家具類の間で照らし出される眼が一斉に応じた。集団の中に銀貨を転がしていたあの男を見つけた。
奴らは手前同士で諍いを起こし始める。飛び交う罵声を仕切る者がいた。小賢しい真似をしたあの男を引っ張り出している。顎に大きな痣を持つ男。頬骨に沿う楔形。それは魚のえらに似る。エーグルファン。あれが頭目か。鱈男は此方を指差し、目配せする。矮小な暗黒で躍る影。衆愚がまとまりなく動き出した。
払った手に張り付いた脈搏を暗黒から引きちぎってゆく。飛びかかってきた者の顔面を捕らえて壁に叩きつけた。確かに頭蓋が砕けた手応え。腕にしがみ付いた者を投げ倒し、転んだ土手っ腹を踏み潰した。何処を狙えば絶えるかは分かっていた。
成れの果ての肉塊が増えていき、足の障りと化していった。鱈男が手下どもの現状を尻目に逃げ道を探している。終わりを甘受せず、さらに落ちることを選ぶという。混乱を足蹴に駆け上がる。鱈男を床に押さえつけたが抵抗され、首筋に力をかけた。
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