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トレイを抱えたままオフィスに戻ると、誰かの話し声が聞こえてきた。
「ああ、そうですね。まぁ、よくやってくれていますよ。
・・・さぁ?そちらの方はどうでしょう?」
?
怪訝な顔でそろりと中を伺うと、スマホを片手に話している秋津の姿を目にする。
「とりあえず、今のところはこちらでも調査してみます。何かあったら知らせて下さい」
そう言って通話を終えた彼は、何故かこちらに目を向けた。
!
「通話は終わったよ」
・・・
こちらに向かって目を細める彼の様子から、入り口の影に隠れている和泉には気づいているらしい。
それでも、どうしたものかとトレイを手にしたまま黙っていると、目ざとくそれを見つけたらしい秋津はこちらに近づき、ひょいとそれを奪った。
「思ったよりも上手に出来たね。いただきます」
そのままそれを自分の席に持って行くと、一口頬張る。
「うん、美味しい。味も合格。
・・・ってあれ、赤羽さんの分は?」
「それが、奇跡の作品です。今の私の腕では、二つも作れません」
「そっか。じゃあ、半分こしよう」
先程まで通話していた時が嘘のような平和な声音で、そんな提案をされた。
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