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「そんなこと言ったって」
「ハイハイ。アンタを嵌めた憎き男は、めでたくオリの中よ。よかったじゃない」
すっかり過去のことのように茉莉果は言うが、和泉にとっては喫緊の問題だ。何しろその過去が原因で横領の疑いをかけられ、秋津には「どうにもならなくなったらもらってやる」と言われているのだから。
・・・
いや、むしろ彼は和泉には何もしてほしくないのかもしれない。
その可能性に思い当たったとき、秋津は何か知っているのかもしれない、という考えに行き着く。
そういえば、部長室から出た後見計らったように待ち伏せていた彼は、何か言いたそうだった。
「・・・そうね。少し、話してみるのもいいかもしれない」
「やぁっと、その気になったのね」
隣の茉莉果はどうやら勘違いをしているようだが、まぁいい。
「茉莉果。今日」
「ハイハイ、お昼を食べたらお邪魔虫は退散するわよ。あとは、どうぞ二人で」
呆れたような茉莉果の声が響き、次いで遠くの人ごみの中に秋津を発見する。
「あ」
「来たわよ。愛しのダーリンが」
「ゴメンね、待たせて」
「いえ」
こちらを見るなり駆け寄ってきた秋津にそう返事をしながら、和泉は内心の決意を固めていった。
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