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「すみません、課長。私、今日中にATMで振り込まなきゃいけないお金があるので、これで失礼しますね」
昼食を急いでかき込んだ後、茉莉果はそう言って立ち上がる。
「お弁当箱は、和泉に預けて下さい。では、ごゆっくり」
・・・
そう微笑むと、茉莉果はバッグを持って手を振り去って行った。
「気を使わせちゃったみたいだね」
遠くに走り去っていく茉莉果を楽しそうに眺めながら、秋津が呟く。
が、彼とは対称的に和泉はそんな浮き足立った気分になれなかった。
「そうですね」
それを証明するように、硬質の声音で相槌を打つと、秋津はそれに気づいているのかいないのか、寂しそうな笑みを浮かべる。
「やっぱり無理だった?」
「何がですか?」
「昨日のこと」
「そんなことは・・・」
そう言いかけて、『しまった』と後悔する。その証拠に、秋津は安堵したように和泉に手を伸ばした。
「そっかそっか。嫌じゃなかったならよかった」
!
気がつけば、和泉の身体はすっぽりと秋津の腕の中に収まっている。・・・逃げられない。
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