一章

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「せやね。誰も気にするタイプいないよね、もう」 細かい話なのかも知れなかったが、別に神仏やらに拘りがあったというわけではなかった ただ、習わしだとか、風習だとか、大袈裟に言えば民俗学にほんの少しだけ興味があって、「そういうふうに」するのはどんな意味があるのかと気にしたことがあるだけだった 道雄自身の個人的見解としては実に無頓着ではあったが、そういう儀礼や儀式は、守るところは守るべきで、勝手なものだが、言わば、自分が参加しなくてもいい隣の町でお祭りを続けていてもらいたいと思うようなタイプだった 晴花も博識なだけあって、瞬時に「神棚封じ」なんて言葉を出してくる存在だったのだが、晴花自身は色んな見識を身に付ける中でクリスチャンになることを選択するような、ある意味では道雄以上に根なし草体質のある人だった 別に西洋かぶれという浅はかなものではなかったのだが、父にもそんなところが生前はあり、洋画を描いて、ジャズを聞くような、昭和一桁生まれとしては実にモダンな人だった 「とりあえず兄貴戻ってきたら一緒に神社いって来るわ。それで、佐藤が来るまでに段取りの話が出来るようにしとかんと、何も進まへん」 「そういうことか。そうだよね。勝手に動いてもどうしようもないもんね。んじゃ待機だね。昼は?」 「あ、新幹線で駅弁食ってきたからええよ」 「まあ、とりあえずお茶いれるよ」 そういって晴花が立ち上がったので、道雄は、道雄よりは頻繁にこの家に帰ってきていた晴花に 「ラジカセなんてこの家あったっけ?」 と聞いた 「ラジカセ?ああ。そうだね。シーンとした部屋にお父さん置いとくのもなんだしね」 そう言った晴花と、父が書斎にしていた部屋を探し、見付けたラジカセを父の枕元に置き 生前の父が聞いていたCDから ビリー・ホリデーの一枚を選んで、寒い部屋にジャズの音色を流した
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