四章

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友情というものは、家族や恋人、ましてや淡い青春幻影などよりも深い絆を生む まるでそれは樹のように、根や幹さえ枯れ果てなければ、春が来れば花でも咲かせ、季節を乗り越える ……ただ道雄は 春の日に一度だけ咲いた草花を、無理矢理に樹に見立てようとしてしまった 青春幻影との淡い絆を、これまた不安定な現実のなかに求めてしまったのだ 自分では現実と幻想の狭間を求めていると言っていたくせに、何も作ることをせず、ただ求めるだけの下らない存在であるとを、自ら認めてしまったようなものだった そもそも何故、薫が青春幻影になっていたのか そこらじゅうにごくありふれた青春をすごさず、未完成な自己なり、その自己の礎なりを構築しようと、表現欲求にとりつかれ明け暮れていたくせに 道雄が憧れた薫は、幻想の中でさえ、特異な存在ではなかった 明らかに道雄とは同じ思想を持たないし、それどころか思想などという単語すら欲していない存在だ ただ、朗らかで美しいだけ。そんな存在だった 人の思考回路にはそもそも相容れない二種類があるらしい よく言われる文系理系やら、男脳女脳などよりも根元的な違いとして 生活者思考をする者と、芸術家思考をする者 生命の上に生活を積み上げ、その上で生きて死ぬことを考える脳と、一方は、何物かを作り上げることを第一義とし、生命はあくまでもその手段としてとらえると言う脳 どちらの脳がマトモかという話ではなく、その二つの思考回路には接点をもたないことが、お互いにとって平和なのだ だが、学生の頃はそんな思考回路の違いを知らない道雄には 社会の中でも幸福を手に入れられるという夢想があった だからこそ、薫を現実にも求めることが出来たのかもしれない 幸いにして、薫はその接点を拒絶してくれた 小説と手紙を送りつけてから一月ほどが経ったとき、道雄の元に やんわりと道雄からの想いを拒絶する薫からの返事が届いたのだ しかし 夢想にとりつかれただけの道雄は、その接点を再度模索してしまったのだ
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