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今日こそ彼女に自分の気持ちを伝えなくてはならない。
まさか彼女に会ってから日も経っていない間に早くもこんな日を迎えるとは思いもよらなかった。
これを言ったら彼女はなんて言うのだろうか。どんな顔をするか。
中山は想像してから顔を横に激しく振った。
迷ってはならないと自分に言い聞かせてみた。
中山太一は少し緊張した面持ちで目の前にあるコーヒーカップを眺めながら手に力が入っていた。
上下のブルースーツにガラスレザーの靴を履いている。
駅の近くのカフェはお昼過ぎでお客様は比較的、人は静かだった。
隣の席で眉間に皺を寄せ、握りこぶしを作りながら真剣に書類を見つめる男がいる。
多々ならぬ印象があったが、じろじろ見つめるのは中山は大きく深呼吸をして吐いた。
窓の外を見つめる。今日は、密かにお付き合いをしている加山幸子を呼び出した。
彼女と知り合ったのは約5年前のことで、同じ職場の同僚だった。
その時に中山40才、結婚して子供は女の子が二人いる。中学生と高校生だ。
加山幸子は3つ下の37才。独身。
中山は幸子に仕事の相談しているうちに幸子に段々恋心を抱くようになった。
それから彼女とは恋愛関係となっていた。
親切で愛情深い幸子は安らぎを中山に与えていた。中山は家族に省みず愛にどっぷりはまってしまった。
しかし5年が経過した、ここ最近になって中山は徐々に幸子に会うことで、家族に対する罪悪感と幸子と2人でいることに倦怠感を感じるようになってきた。愛情が薄れてきたのかわからないが徐々に幸子に会うのが苦痛になってきた。
巣だった鳥が元の巣に戻りたい心境か、家族をまた大事にしたい気持ちなのかはわからない。
中山は胸にあるこの感情か抑えられなくなり決断することにした。もう幸子に会うことやめることを伝えることにしたのだ。
幸子には色々と世話をしてもらって感謝はしているのだが、こればかりは仕方ないことだと思った。
幸子は中山が働いていた会社を今は辞めて、転職をし今は別の仕事で働いている。
その時、自動ドアを開く。
幸子かと思ったら違った。
その髪の長い女性は隣の眉間に皺を寄せていた男性に近づいた。
男性は先ほどとはうってかわって笑顔を作る。そのまま二人でお店を出ていった。
あの2人カップルの割にはただならぬ印象がある。
それと入れ違いのように同時に幸子が入ってきた。
彼女は腰まである長い髪にチャコールグレーのコートに白いワイシャツ、黒のパンツに高いヒールを履いていた。
幸子は中山を見つけると笑顔になった。
「待った?どれどれ」
幸子は時計をみる。
「ちょうどだね。遅れてしまうかもと思ったが良かった」
「いや、時間は大丈夫。俺も今来たところなんだ。大事な話があるんだ。ちょっとそこの公園を歩こうか」
中山はコーヒーの会計を済まして2人お店を出た。
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