不覚

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中山は幸子を連れて近くにある尾上公園(おのうえこうえん)を歩きだした。 歩いて広場を見つけて2人椅子に腰掛けた。 「実は話なんだけどさ」 「なあに。急に深刻な顔をして」 幸子は中山の慎重な顔の表情を見て、これは何かあると察したのか笑顔が消えた。 「言いにくいだけどさ、僕らの関係を解消したいと思うんだ」 幸子は無言になった。 中山の告白に対して幸子は表情を変えず反応もしない。 何か深く考え込んでいるようにも見える。 「なんで、急にどうしたの」 幸子は顔をつきだすように中山を見つめてきた。 中山は表情を変えない。 「とにかくお互いに会うことをやめたいんだ」 「どうして」 「今まで僕らは密かに世間で言うところの逢い引きをしていた訳だけど、なんだか最近は二人で会うことは時間を無駄にしているような気がしてきたんだ。最近は特にそう思えてきたんだ」 幸子はすぐに下を向く。 「そんなことないと思うよ。無駄ではない。太一君がそう思っても私は太一君に会いたい。なるべく一緒にいたい。今まで通りでやっていくことは出来ないのかな」 「俺は決めたんだ。幸子もわかっているだろう。俺の一度決めたらゆずらない性格を。わかってほしい。俺はもう行くから」 幸子はあまり納得していない様子だ。 「わかった。太一君の意思は変わらなそうだね。残念だけど太一君のことを諦めるよ。いつかは私に振り向いてくれると信じていたのだけどね」 「ごめん。幸子の期待に応えられなくて、でも楽しかったから」 「それはそうとこの前に貸した六万円は」 「そうか。それは必ずし返すから」 中山は嬉しかった。 もう少し幸子に別れに対して粘られると思ったからだ。 これで心起きなく前を向ける。肩の荷が下りた感覚だ。 これは幸子にとっても良いことのはずだ。 中山は自分に言い聞かすように歩く。 「じゃあここで」 この先に景色がよく見える丘があるのだがその前に別れようとした。 「最後にお願いなんだけど抱きしめてほしい」 幸子の最後のお願いということで中山は抱きしめた。 「じゅあ、これで」 「さようなら」 中山は幸子を一瞬見て、手を振る。 そのまま歩きだした。
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