第三章

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……目覚めた時、自分の体は白いベッドの上にあった。 周りを見回して、生きているのか…と思う。 確かにあの時、シノは銃を撃っていた。外したのか……ひりっとした痛みが湧いて耳を触ると僅かに削いだらしい痕があって、 「……こんなとこ撃ちやがって……どれだけ狙うのが、下手なんだよ…」 ふっと笑いが漏れた……だが呟きながらきっと外したんじゃない、本当は狙って撃ったんだとわかっていた。 シノは警視庁主催の射撃競技大会で優勝する程の腕前だった。大声を出し威嚇して撃たせたあの一瞬にも、篠崎は的確に外して撃っていた……。 的確に……俺は巽をまともに撃つことすら出来ず拉致される事態にもなったのに、あいつは数秒の判断を見誤ることなく、 俺の気を逸らすために、俺の気を失わせて保護するために、あまり損傷のない耳の上部を撃ち抜いた……。 縁の少し削げた耳を触りながら、わかりたくはなかったと思っていた……自分には及ばない銃の腕も、そうしてあいつの前で晒したんだろう醜態も、何もかもを忘れていたかった。 忘れて……あの時、巽を銃撃しそこへ篠崎が踏み込んで来て……それから被弾するまでの記憶が、俺にはなかった。 ……クスリのフラッシュバックが襲ったのに違いないと感じた……。 フラッシュバック……ドラッグを常用した者に引き起こされる精神疾患……クスリをやっていた時の高揚感が唐突に蘇り、正常じゃいられなくなり狂う……。 ……どう、狂った……俺はシノに、何をした……思い出すこともできない記憶に胸が詰まり、涙が溢れ出して止まらなくなった……。
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