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「…………閉鎖病棟」
聞こえた単語を口の中でくり返して、ここがどういう場所なのかわかった。
「…………薬物依存者が入院するための病棟か……」呟くと、
「……すいません、」制服を着込んだ警察官は再び深く頭を垂れて、「……その通りです」と、うつむいたままで返した。
「……いい。おまえが恐縮することはない……俺がヤク中なのは、真実なんだからな…」
情けない思いで口にすると、
「……葵巡査部長!」
ふいにその警察官は顔を上げて、
「……俺は、あなたをいつも尊敬していました! あなたは、俺の憧れの刑事でした!」
ピシッと額の横に片手をあて敬礼をし、真っ直ぐに俺を見た。
「……そう、か…」
と、目を逸らした……。
「葵巡査部長、薬物など克服して、きっと戻って来て下さい! そうしてまたかっこいい活躍を見せて下さい!」
「…………ああ」
と、だけ返した。
…………克服? そんなものできるわけがないだろうと感じていた。
どれだけ薬物依存のケースを見てきたと思っている…………何年、何十年経とうが、一度身体に入れたクスリは消えやしない……現に俺は、篠崎の前でもフラッシュバックを起こしていた。
もう、ドラッグを二度とは抜けないことは、わかり切っていた……だから俺は、もう二度とは警察へ戻るつもりもなかった……。
目の前のかつての俺を憧れだと言う若い警察官に、「俺が、目を覚ましたと知らせてくれ。聴取に応えるからと」そう伝えると、「はい!」と無線機を手にした。
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