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 執筆画面を前に、途切れた文と睨みあう。授業が終わり、昼を終え、睨めっこを始めて十分は経った。  つい昨日、新作に取り組みはじめた。  テーマである〝100〟を題材に練っているのだが、意外にピンと来ない。あれやこれやと考えては、これじゃ駄目だと切り捨てた。 「それってエブリハート?」  唐突な声に、肩が跳ねる。画面を伏せて後ろを見ると、見知らぬ男子が立っていた。 「今見てたのってエブリハートだよね。しかも執筆画面」 「そうだけど……」  ズカズカと前席の椅子に座る彼の情報を、必死に思い出そうと努める。交友を疎かにしたツケが、こんな所で出るとは思ってもみなかった。 「君、小説書いてるんだ。実は僕もなんだよ。しかも同じサイト」 「あ、そうなんだ。えっと……」  記憶散策はリタイアし、男子生徒を見遣る。思考を察したのか、苦笑を見せた。 「今野(こんの)永幸(ながゆき)。隣のクラスだから知らなくて当然かも。今日は用があって来てただけだし。君は確か萩原くんだっけ?」 「うん、よく知ってるね」 「当たってて良かった。あ、折角だし萩原くんのアカウント教えてよ」  今野は、ポケットから携帯を出す。裏腹に、俺は置かれた状態のまま手を被せた。 「いや、恥ずかしいからいい」 「えっ、投稿してるのに?」 「リアルの人に見られるのはちょっとって感じ。ネットだから出せるって言うか……」  実は、小説を書いていることは自分だけの秘密だ。いや、違う。賞を取れない小説など、知人に堂々と見せられなかった。 「なるほどね」 「今野くんは恥ずかしくない?」 「全然。寧ろ嬉しいよ」  屈託のない笑顔が零される。自分にはない表情に、純粋な憧れを感じた。  同じ場所で書いている、初めての人。けれど俺とは違う人。そんな彼を、もっと知りたくなった。 「……ユーザー名、聞いても良い?」
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