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「ナオ、大丈夫だった?。」
「え?…母さんか。」
「残念そうな言い方だわね。なんか、イイコトでもあった?」
「ないよ。」
言いながら、家族控え室の方をチラリと見た。
「あれ?」
「どうしたの?」
彼女の、サクラの姿が無い。先程まで、そこにいたのに…。
「…なんでもない。なんか、疲れてきた。部屋に戻りたい。」
「そうね、無理しない方がいいわ。」
母親が、車椅子を押す。
『それにしても、かわいい子だったよな。』
苦痛ばかりで、なんの楽しみもない病院生活だった。無機質で単調な白い世界に閉じ込められて、思うように動かない身体を引きずって…。そんな中、鮮やかな紅い服に身を包んだ彼女が、とても新鮮で…──どう言えばいいのか言葉が見つからない。とにかく、オレの中で“彼女”の存在は、忘れようのない強烈なイメージとして焼きついた。人に対してこんな感覚を持ったのは、初めてだった。
『また、逢いたいな。』
重たく、少し動くだけでも激痛に苛(サイナ)まれる身体をベッドに横たえると、オレは再び眠りについた。明日になって、この激痛も少しは和らいでくれればいいのに。
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