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男が、床を蹴った。それを阻む魔術は一切ない。
「ッ────!」
カードが飛び、幻影が現れ、消滅する。
桔梗は、その不利を悟っていながら、逃げることが出来ない。この道を譲ってしまったら、全てが終わってしまう。
だが、難無く男は桔梗へ肉薄した。
「良い夢を……」
繰り出されたのは、単なる拳打。それでも、魔術干渉をものともしない拳を防ぐ術は、桔梗にありはしない。
どッ、とみぞおちに走った鋭い衝撃。桔梗は、うめき声すら上げられずに、沈黙した。
支えを失った体が、どさりと床に落ちる。
「……《Mの書》は、私が頂きますよ」
不気味に口角をつり上げた男は、片腕に桔梗を抱え、《薔薇十字団》の《無限回廊》へと歩を進めた。
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