†一章† 捜索前線

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††††††††  全国の学生たちに等しく与えられる、安息の一時。  曰く、それを夏季休業────夏休みと呼ぶ。  ただし、それはあくまで気象の関係から教育機関での効率的な学習が望めないため、自宅学習や家業の手伝い、体験学習を促すという制度。  よって、「休みだ休みだうはぁー」などとぬかしつつ、朝からソファに寝転んでテレビ三昧の生活を送ろうとしている少年は、学生としても人間、或いはダムピールとしても激しく間違っている。  その愚行を正すべく、火之神遙火(ヒノカミハルカ)はソファごと少年を引っくり返した。篭った叫び声と生々しくも鈍い音が耳に入ったが、気にする余地はない。 「全く、休みだからといって怠けてるんじゃないですー。さっさと宿題やりなさいですよー」  腰に手を当てつつ、長い黒髪を揺らす。かく言う少女の眠たげな瞳が、なんとも、遙火らしい。 「……んなこと言ってもよー」  程なくして、ソファの悲劇の真下から、抗議の声が上がった。 「──夏休み初日ぐらい、いいじゃねえかよ」 「そう言って、いつだかのレポートみたいに切羽詰まるのが目に見えますよー」  見事な遙火の切り返しに、「う……」と、羽間澄輝(ハザマトウキ)は言葉に詰まった。
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