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あの、地獄のような数日間が脳裏にフラッシュバックしたのだ。
「へいへい、ぼちぼちやっときますよー」
反抗心からか、その口調は遙火のものに似ていた。
澄輝は反転したソファを定位置に直し、再びそこに寝そべった。
ビシリ。
瞬間、空間にそんな異音が走った気がした。
とてつもない気配────魔力が、遙火に集まり始める。
慌てて澄輝は身を起こし、振り向いた。
爆炎の魔女が、そこにそびえていた。その無表情に、隠しきれない怒りの炎が渦巻いている。
「あ……あの……えーと…………」
弁解の言葉を探す澄輝。だが、上手く思考が働かない、というか石化。メデューサに劣らぬ形相が、遙火の顔に滲んでいた。
みしり、と床が鳴り、執行の時が近付く。
だがそれは、新たな声によって中断される。
「おっじゃましまーすっ!」
その姿を見ずとも、スキップをする光景が目に浮かぶ。そんな、快活な声。
御崎瑠奈(ミサキルナ)が、リビングへと入ってきた。その、微妙な位置────すなわち左側頭部で結った髪が、いつものように楽し気に揺れた。ただ、服装だけは常とは違い、私服だった。
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