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茜の想い3(完結)
「多分、無理かなって思います」
私は自分の本心を口にしていた。
こんな男に何を話しているのかと自問したくもなったが、きっと心のどこかで誰かに本心を吐露したかったのだろう。
名前も知らないこの男は、うってつけの相手だったのだ。
「私、初めて信じられる人に出会って初めて人生をかけて努力しようって思ったんです。これでダメならもう……」
「そっか……」
私の言葉に、男が神妙な口調で返してくる。
「もし君が絶望の余り、命を捨てようなんて考えることがあったら、僕に声をかけて欲しい。一度〝死んだ〟人間は何でもできる。僕はそう思う」
「そんな都合良くあなたが現れるって言うの?」
「うん。僕はきっとまた君の許へ現れる。もし、その時が来たら、君は今日のことを思い出すと思うよ」
「大丈夫。私の未来に絶望なんか待ってません。あなたとも、二度と会うことはありません」
「僕もそう願いたいね。じゃ、また」
私の心に大きな疑問といくばくかの不安を残して、男は夜の闇に消えた。
大丈夫、私は天道さんを最後まで信じよう。
これは私の、女としての意地なんだ。
決意を新たに、自宅のドアを開ける。
光り輝く未来は、すぐそこに見えた気がした。
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