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「一希」
白の長袖ワンピースを着た小さな女の子は、名前を呼ばれて背筋を伸ばしました。
女の子は、お婆さんと和室で向かい合って座っています。お婆さんは薄紫の着物姿で、白髪をきつく結い上げていました。
「一希。あなたにこれをあげましょう。もう六歳なのだから、亡くしたりはしませんね?」
お婆さんはそう言って、女の子の首にペンダントを掛けました。
トルコブルーの、大人の親指大の石で、細かい銀細工が施されています。長さを調節できる同じ銀の鎖がついていました。
胸元に落ちたペンダントを見て、女の子は言いました。
「はい、ひいおばあちゃん。ありがとうございます!」
お婆さんは少し目を細めましたが、すぐに真剣な面持ちになりました。
「良い子ね。一希、大切なものは全て自分で守りなさい。守り抜けるようになりなさい。いいですね?」
女の子は、お婆さんがなぜそんなことを言うのかわからなくて首を傾げました。
その様子を見てお婆さんが微笑みます。
「ふふ、きっといつかわかる日が来ます。今言ったことを忘れないで」
お婆さんは女の子の金が混じった茶色い髪の毛をくしゃくしゃと撫でました。
「わかりました、ひいおばあちゃん」
女の子は笑って答えました。そして、
「ひいおばあちゃん、これのあかいろのはないですか?まほちゃんとおそろいにしたいです」
と尋ねました。
お婆さんは女の子が気付かないくらいに一瞬だけ顔を哀しく曇らせました。しかし、すぐに困ったような笑顔に変えました。
「ごめんね、これはこの青いの一個しか無いのですよ。真帆ちゃんには今度別の似たような物を買ってあげましょうね」
女の子は、嬉しそうに言いました。
「ありがとうございます!じゃあ、こんどいっしょにデパートに行けますか!?」
老婆は小指を女の子に差し出しました。
「ええ、行きましょう。約束ね」
部屋に入り込む春の暖かい陽射しの下、二人は指切りをしていました。
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