トビオとATOM

2/73
前へ
/73ページ
次へ
<物語> 「息子をよみがえらせてくれ」やせた鼻がテングのように細高いちりちり頭とひげ、どこか鶏を思わせる顔をした壮年の男が訴える。 「私どもは、確かに人を極限まで元気にするノウハウをご教授する団体ではありますが、亡くなった人間をよみがえらせることはできないのです、残念ですが、天馬博士」切れ長の目をした黒尽くめの白皙の美青年が言った。  彼の名は、東丈。ここは多摩の山奥にある”宇宙救済協会”本部の一室。彼はこの団体の事務局長であるが、そのトップは半ば以上”看板”存在なので、彼が実際の経営トップということは間違いない。  そんな多忙のはずの彼が、それでも時間を割いて、目の前の壮年にあったのはなぜか。それは、彼が科学省の長官だからだ。  科学省も、ほかの象徴と同じく大臣がいるのだが、庶民から選挙であがった人間では専門職の強い科学分野では荷が重いということで、大臣の下に科学者を長官に置くという変則構造を持っているのだ。もっとも、長官になった科学者だって、いまの世界の全ての科学分野に精通しているというのは夢のまた夢なので、半ばは彼も名誉職なのだが、それでも、歴代の長官は誠実に対応していると定評があった。長官はその時代のトレンドな産業科学分野のエキスパートが勤めるのが常識化していた。  今は、ロボット、それも人型ロボットであった。さまざまな形態のロボットはすでに無数に生まれている。日本の主要産業は用途別専門ロボットだった。天馬博士はその分野の自他共に認める世界的権威だったのである。 「そこを、なんとか、お願いだ」 「と頭を下げられても、困ります、頭を上げてください、天馬博士」 「息子を、トビオをここまで運んでいるんだ」 「トビオ・・亡くなった息子さん、ですね」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加