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「まだ、小学生の中学年だったとか、新聞に書いてありましたが。もうとっくに火葬になったのでは」
「トビオは死んでいない。そう、ただ、眠っているだけだ、眠って・・」
「天馬博士」東丈は絶句した。
あのうわさは、本当だったのだ。天馬博士は、息子を失った悲しみに正気を失ってしまったのだと。
”これは、やばいな”丈は、歯噛みする。
「頼む、君たちの”デステニー”をトビオに使ってくれ」
「その話をどなたから」
”デステニー”とは、丈たちが不死身を求める会員たちに処方する特殊な細胞塊のことである。詳細は省くが、宇宙を股にかけて暴れる宇宙生命体幻魔の体を構成する超細胞デスを無害化したものことだ。それを注入された人間との相性によって、その不死身度は変わるのだが、それでも、今の通常の人間からすれば、数等倍する生命力を得ることが出来るのだ。だが、繰り返すが、それは生きている人間に施してこそ。すでに死んでしまった人間に施しても、無駄なことは知れている。ただ、デステニーに食われてしまうのが落ちなのだ。
「ブラックジャック先生だ」
「あの人か」東丈は小さく舌打ちをした。
異相の名医、ただし、医師免許はもっていないか、資格をうしなったらしいが、詳しいことは不明。とにかく、その腕の確かさで知られている。口が堅いと信じて教えた企業秘密なのだが。もっとも、彼の紹介で世界中のセレブに会員を持つというチャンネルも開いたのだが・・・
「ならば、おわかりでしょうが、死体にデステニーを処方しても、デステニーの餌になるだけですよ。それでも、いいのですか?」
「いいのだ。トビオがよみがえるなら、多少のリスクは、やむをえない」
「ですから、それは、多少のリスクではないと申し上げているのですが」
「処方してくれるなら、なんでもいい。なんでもいいのだ。わしは、トビオがよみがえると確信しているのだ」
「わかりました。しかたがありませんね。しかし、どうして、そんな確信をお持ちなのです、もしかして」
「ああ、ブラックジャック先生に同道してもらっている。先生は車の中で待機してくれている」
”金に汚い医師だという噂もある。まあ、それだけの人でないのは、わかっているつもりだけど、天馬博士に大枚をはたくように吹っかけたのかもな”丈は、そう考えるしかない。
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