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そこで、逆にロボット輸出国の面子にかけて、成功すれば、さらなる輸出国として絶対の地位を確保できる。その意味では、日本の将来の帰趨をしかねないということで、この時代、多少以上に人格に関しては兎角のうわさのある天馬博士を長官にすえてのビッグプロジェクトにしたのだ。
しかし、そうして大資本を投入しても、天才天馬博士をしても、それは困難の連続だったのだ。動くおもちゃでよければ、人型は昔から存在したが、人間と同じ作業をすることは出来なかったのである。しかし、それでは困るのだ。プロジェクトが成功しないのは、天馬博士の人徳に兎角の問題があるからだという声が、責任を問われた科学省内スタッフから上がるのも当然だったろう。
その意味では、次が天馬博士の最後のトライになることになった。そうなると、もう日曜祭日もなく、研究に没頭できるのが、天馬という男だった。
そんなある日、息子の当時小学校中学年のトビオが、父に直談判に来たのだった。
聞けば、大事な彼の発表会に一緒に出席すると、空約束したらしい。父親の仕事をそれなりに理解して、日々家で一人で過ごしても、我慢してきたトビオも、さすがに今回の仕打ちは利いたようだ。堪らず、父を誘いに来たのだった。
”すまんなあ、トビオ、お父さんは、仕事が忙しいんだ。今度失敗したら、科学省長官をクビになっちゃうんだよ。我慢しておくれ”長官室からの直通にした受付のTVモニター越しに、すまなそうに天馬が言う。
こんな天馬の顔をみたことのある職員はおそらく絶無に違いない。彼らの知る天馬長官といえば、傲慢不遜が背広を着ているような人物だったからである。
天馬博士は独身である。妻とは死別ではなく、離婚であった。熾烈な科学省長官指名競争に勝つために、やむなく離婚したといううわさがあるが定かではない。
出身は、そういってはなんだが、紀州吉野山系の奥地にある差別部落の出身者だったらしい。そういうことも、この時代になってもまだ、長官指名には不利なスキャンダルになるのだった。
本名は別にあるらしいが、世間的通り名は”ヒミコ”という、その界隈ではかなりの霊感の在る女性だったらしい。離婚はしたが、しかし、天馬は誰とも再婚しなかった。彼女は、姿を消し、その後、まあ、追いかける人間がいなかったこともあり、誰も彼女の消息を知らない。
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