宵の徴収

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 隙間からそっと中を窺う。  引っ越してきたばかりなのだろうか。部屋はがらんとして、生活の臭いがしなかった。玄関には履き物の一足もなく、調度品は一台のテレビだけ。  その今時珍しいブラウン管テレビは、見るものもない空間に夕方のニュースを発信していた。 「こんばんは、受信料の契約に参りました。どなたかいませんか」  部屋の中に呼び掛けるが、返事はない。居留守を試みる者特有の気配もない。  首をひねる。テレビがないと言い張る住人を相手にしたことは数限りないが、逆は初めてだった──うち住人ないんですよね。嘘だと思うなら見せてもいいですよ。契約なんてしませんよ、だって視聴する人がいないんだもの。帰ってください、帰ってください。  苦笑する。それから舌打ちを一つして、踵を返す。  背後でテレビが消えた。けれど彼は気づかない。
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