プロローグ

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ポンジとは生地の一種でペラッペラの格安の布である。布がペラペラなので大きさが大きくなればなるほどピンと張るためにロープを通す穴(ハトメ加工)が必要になる。 ここ、アルクは印刷会社で私たちは販促部に所属している。 客の依頼内容は名刺のデザイン作成から始まり、イベントスペースの装飾まで幅広く扱っており、覚える内容は盛りだくさん。わたしだって入社した当時はてんやわんやだった。 「それ、誰のデザイン?もらったものなら先方に話して作り直してもらって。もしうちで受けているものならデザイナーに伝えて。入稿何時?」 「明日の午前中です」 「そう。ならできるわね?」 笹原くんは目を輝かせて小さく頷いた。まだまだ全て覚えるのに時間がかかるだろうが、彼は飲み込みが早く機転も利く。さすが25歳。スポンジのような吸収力だ。 「笹原くん、未玖さんに頼りすぎですよー。少しは自分で考えてください」 「分からないことを聞いて何が悪いんですか。あ、未玖さん引き止めてすみません。引き止めた俺が言うのもアレですけど、早くお迎え行ってあげてください!」 時計を見れば先ほどから五分ほど経っていた。慌ててパソコンを閉じて帰り仕度をする。 「ごめんね、ありがとう」 「またりっくんに会わせてくださいね」 「いいなー。田坂さんズルい!俺も会いたいです!」 「わたしがあと25年若ければ立候補するのになあ」 「そんなの相手にされなくて終わりっすよ」 「うるさいわね!仕事しなさいよ」 「へいへーい」
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