再会

11/11
前へ
/57ページ
次へ
微かに聞こえてくる寝息。 疲労が溜まっていたのか、思ったより深い眠りに着いているようだ。 僕に背を向けて、赤ん坊のように丸く縮こまって寝ている。 ……無防備だなぁ。 襲わないとは言ったものの、二人きりの状況で、そんな保証はないのに。 腰まで伸びた、漆のように真っ黒な艶のある髪に、その隙間からのぞく白い項。 思わず噛みつきたくなる衝動に駆られる。 ……嗚呼、愛おしい。 その髪も、その首も、背中も、全てが綺麗で、鮮烈で。 何も、変わっていなかった。 あの頃と、何一つ。 なのに、空いてしまった隙が大きすぎて。 彼女が遥か彼方へ行ってしまったような、酷くもどかしいこの感覚は、彼女が傍に戻ってきても、忘れられなかった。 耐えられなくなって、また手を伸ばす。 以前は過去の幻影でしかなかったけれど、今は指の先に、本物の彼女がいる。 もっと体を寄せれば、触れられる。 ──欲しい 彼女が、そよかが欲しい。 僕は君の全てを知ってる。 なのに、どうして君は、僕を知らないの? 「何も──」 僕の中を、行くあてのない矛盾が支配する。 そよかは、まだ知らない。 いくつもの思惑が絡まるその中心に、自分がいることを。 「──思い出さなきゃいいのに」 解くことも断ち切ることも出来ない糸は、容赦なくそよかの身に絡みつくだろう。 誰も彼も、そよかの存在を放っておいてはくれない。 それは、僕もだろうけど。 だからこそ、僕が護らなければ。 例えそれが、本当の意味での君のためでなくとも、 "吉田栄太郎" という僕の存在を思い出せなくとも。 君の頬が、濡れてしまわぬように。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加