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生きる意思
「ん…んん……」
日の出を告げる鳥の鳴き声。
朝日が容赦なく瞼の裏に光を差してくる。
「……もう朝か…」
眠たい目を起こし、隣の違和感に目を向ける。
「寝てる……」
狸寝入り、ではなさそうだけど……。
茶色がかった短髪が朝日に照らされて。
すきま風に揺れる毛先は、一本一本が実に繊細で。
長い睫毛に、筋の通った鼻、唇は女子のように紅く艶めいている。
昨晩、対峙中に垣間見た、あの表情が幻に思えてくるほど、男の寝顔は幼く見えて──綺麗だった。
「っ! 」
ハッとして、意味もなく後ろに下がる。
見惚れていた事に、気づきもしなかった。
妙に懐かしさが溢れ、思わず目を逸らす。
──目を背けては、いけないのに
分かってる。そんなの、もう分かっている。
己の奥底に閉じ込められた記憶を、知りたくて知りたくて仕方がないのに。
なのに、どこかで去勢してしまっている自分がいる。
そんな矛盾した思考に蓋をし、そよかは宿を出て、気分転換という名目で宿周辺を散策した。
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