生きる意思

4/14
前へ
/57ページ
次へ
振り返った時には、既に振り下ろされる刀が見えた。 咄嗟に小刀を前に出したおかげで、何とか生きながらえたが、次はない。 傷だらけの身体を地面に押し付けられ、唯一の武器の小刀も弾かれ手元にない。 今度こそ、終わるのか。 「あんた、女にしては楽しめたぜ? いや、俺が殺してきた中で一番だ」 斬られる以外に、道は残されていない。 ただひたすら、己の人生を思い返すだけで。 周りの音が嘘のように耳に入らず、死ぬ間際だというのに、心は酷く冷めていた。 違う。 思えば、あれから何一つ思い出せないままだ。 違う。 私は、何のために生きていたんだろう。 「じゃあな」 いいの? 吉田稔麿と対峙して、負けた時と同じように、ここで目を閉じて。 潔く終焉を迎え、虚無でしかない誇りを守ったとでも言うの? 自分の奥底にいる何者かが、私に問いかけてくる。 そうだ。 私は、取り戻したい。 失ってしまった記憶を。 あの男のためでも、他の誰のためでもない、自分自身のために。 だったら、意地でも足掻いてみせなさい。 「──っ」 瞬間、視界が開けた。 五感が冴え渡る。 破裂しそうなほど高鳴る心臓を、鋭く光る刃が貫く──その前に。 「うっ!? 」 男の呻き声が上がった。 押さえつける力が一瞬弱くなったのを機に、男の腕から抜け出す。 即座に転がっている小刀を拾い、構え直すそよかを、男は睨みつけた。 「てめえっ……隠してやがったな……」 苦し紛れに言う男の脇腹には、一本の苦無が深々と突き刺さっていた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加