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あれから数刻、松屋のとある一室にて。
「ゔっ……! 」
そよかは歯を噛み締め、目を点にさせながら、治療の痛みに耐えていた。
まるで拷問の如く、斬られた時よりも何倍もの強烈な痛み。
知っていてなお、大きく裂かれた傷口を躊躇なく炙る医者。
「ん゙ゔゔゔ!! 」
舌を噛んでしまわぬよう、口に手拭いを押し込まれており、思うように声が出ない。
苦痛に首を仰け反らせても、それ以上は吉田稔麿に押さえつけられていて動けない。
元を辿れば自業自得だから何も言えないが、悶えることしか出来ぬ私から、吉田稔麿は片時も目をそらさないのだ。
そしてその顔は、どういう訳か笑っている。
こんな私を見て何が楽しい……!?
「終わりましたよ」
吉田稔麿を睨んでいるうちに、地獄の治療は終わったらしい。
身体を解放され、一気に力が抜けていく。
「……っ? 」
ふと、医者がじっと此方を見つめている事に気づく。
「な、にか……? 」
まだ呼吸は荒いが、何とか疑問を伝えると、医者は考え事をしていたのか、はっとして口を開いた。
「いや……少々、気になる事がありまして」
その時、吉田稔麿の眉が動いたのを私は視界の端で見逃さなかった。
「今朝、お怪我をされたのでしょう? 」
こくりと頷くと、医者は眉をひそめ、更に謎が深まったと言わんばかりに顎に手を添え、独り言のように呟いた。
「ただ治りが速いとも思えん……」
思案顔をする医者。
「言いたいことがあるならさっさと言いなよ」
痺れを切らしたのか、吉田稔麿は若干イラつきながら先を促す。
どこか、焦っているようにも見えるが……。
私も今は同意見だ。
二人に先を促され、医者は観念したように告げた。
「貴方の傷は、どんな状況においても出来るものではないのです」
それは、斬り合った際に出来た傷口だということを知っていての発言だった。
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