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記憶のこと以外は、特に代償は払わないでいいらしい。
というか、そうでもしないと私の身体じゃ足りなくなりそうだ。
「契約成立ね。早速何か聞きたいことでもある? 」
見なくても分かるなぁ。絶対悪いこと考えてる。
「なんでもいいよ? 」
そのなんでもで私は身体の一部を奪われるんだけど。
真顔で圧をかけても、非の打ち所がない満面の笑みで返されてしまう。
こいつには無意味だったと、溜息を零すと、諦めたように質問した。
「……何故私に固執する? 」
「え、そんな質問でいいの? 」
お前と最悪な出会いを果たしてから四六時中離れなかった疑問だけど悪いか。
とは言わず、無言で肯定の意を示す。
「そっかぁ。なら、答えを言うね」
記憶を無くす前に、関わりがあったのは間違いないだろう。
その関係性を、もっと具体的に……
「好きだからだよ」
「……もう一度」
「好き、だからだよ」
「……誰が」
「そよか以外にいないけど」
この質問で、とても重要な事が分かった。
こいつにまともな交渉を望むんじゃなかった。
いやその穴に気づけなかった私も十分悪いけど……。
「ね? 具体的な答えが欲しい時は、具体的な質問をしないと。相変わらず抜けてるねー」
また笑いながら、動けない私の頬を人差し指でつついてくる。
馬鹿にされてる。完全に馬鹿にされてる。
「代償はねぇ……」
まだ地獄は終わっていない。
寧ろこれからが地獄だった。
「声帯って言うのかな? 君の声を貰うよ! 」
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