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何だこの状況は。
「はい、あーん」
お腹空いた? なんて言った後、お粥を持ってきてくれたのだけども。
「誰がするかっ」
この通り絶賛介護されているが、別に頼んだわけではない。決して。
何なら左手で食べられるのに、何故かあーんを強要される。
「自分で食べられる。だから離して」
そんなことさせないと言わんばかりに、左手を握られ……否、押し付けられている。
「食べないと、一生このままだよ? 」
なら口に無理やり突っ込めばいいじゃないか。
わざわざ私から食べに行く必要なんてどこにもない、けれど……。
助けて貰った恩を思い出すと、強くは断れない。
「んっ……」
意を決して口を開き、匙に乗ったお粥をぎこちなくも喉に通す。
視線は気にしたら負けだ。
何度か繰り返し、だいぶ慣れたところで吉田が手を止めた。
「ふふっ」
口元を押え、目を細めている。
笑われるほど、私の行動がおかしかったのか。
だからやりたくなかったのに……。
「……可愛いなぁ」
小さく呟いた彼の言葉は、聞き取れなかった。
けど、薄く微笑む彼に、私は魅入ってしまっていた。
なんて綺麗で、儚い人なんだろう……と。
高鳴っている鼓動が聞こえてしまわないか、それだけが心配だった。
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