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──同時刻、宿の蔵にて。
「ああああ!! 」
ああもう、うるさいなぁ。
せっかく彼女──そよかの耳に届かない場所でしてるって言うのに、聞こえてしまったらどうしてくれるんだ。
「ねえ、早く話してよ」
狭い蔵に充満する、血肉の匂い。
吉田の足元には、今朝そよかを襲った人斬りの、全身傷だらけの姿があった。
拘束された挙句、幾度となく斬られ、殴打された痕などが痛々しく残っている。
無論、そよかと戦った時に出来た傷ではない。
「はあ……めんどくさいな」
悪態をつき、刀を抜く。
僕に加虐趣味は無いから、早く吐いて欲しいんだけど、なかなか強情な"刺客"だなぁ。
仕方ないよね。
そよかを狙ったんだから、当然の報いだよ。
「話さないと、死ねないよ? 」
煽るように耳元で囁き、直後、血飛沫が上がった。
「ぐああああ!! 」
勢いに任せ、男の鍛え上げられた太腿に刀を突き刺した。
「もう一度聞くよ。彼女を殺せと、君に命じたのは誰? 」
「ぁ……ぃ……」
「なに? 」
「あい……づ……」
会津、か。
確かにそよかは会津藩にいたようだし、裏切り者として会津藩は刺客を送り込んだのかもしれない。
けど、その線を僕が考えないわけが無いじゃないか。
「残念。君は本当に何も知らないんだね」
調べなくとも会津藩の刺客でないことくらい分かる。
会津藩主直属の部下……そよかが、身内の手練を把握していない筈がない。
それに、こいつの背後には僕達の行動を読んでいた人間がいる。
そよかは、待ち伏せされていたのだから。
恐らく、だいぶ前から僕達を見ている人間がいるんだ。
そんな人間の部下が、安易に会津藩と吐いたのだから、捨て駒だったのだろう。
「これでやっと……」
情報は絞り上げたことだし、もう用済みだね。
再び刀身を見せると、吉田はそれを高く振り上げ、男にこう告げた。
「──復讐できる」
血のついた口角が、待ちわびたと言わんばかりにずり上がっていた。
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