再会

1/11
前へ
/57ページ
次へ

再会

──カランコロン 夜の帳が下った頃、下駄の音が高らかに響く。 箏の甘く柔らかい音色に、三味線の渋く強い音色。 男を誘惑するお香は鼻から脳へと甘美な刺激を送る。 夜を一層感じさせる遊郭の灯。 今の己の気持ちを簡素に言うならば、 「気持ち悪……」 遊女が待つ檻に伸びる手も、それに縋り付く手も、いくら笠を深く被ろうと視界の端に入ってくる。 肌を掠める夜風だけが心地いいくらいで。 用事があるものだから仕方なく来たものの、早々に遊郭(ここ)から抜け出したい気持ちになった。 「小童ァ!! 」 突然に、雑音の中から野太い声が聞こえた。 なに、夜の街で騒動が起こるのは日常茶飯事なもので、特段驚いたりはしない。 関わらなければいい事だ。しかし。 大声に釣られた人々が好奇心で見物をしに、通りたい道を塞いでいた。 元々しわを作っていたこめかみに、更に力が入る。 目的の場所はすぐそこだというのに。 わざとらしく盛大に吐いた溜息は、見事に周りの騒音に掻き消される。 迷惑している人に気づいてくれないか。 いや、気づいていても構ってられないということか。 「俺の右足踏んだだろ?詫びに金目のものでも置いてけよ」 「僕は踏んでない!」 迷い込んだ世間知らずな子供と、酒で酔った浪人。 陳腐な騒動だなと横目で見やりながら、人混みの中を無理やり突き進む。 しかし思ったよりも馬鹿な見物客が多く滞っているのか、歩みを進めてもなかなか抜け出せない。 「……やってられない」 とうとう呆れた。 きっとこの様子だと暫くは解放して貰えない。 被害を受けているのだから、当の本人に危害を加えても、優しい仏様は許してくれるだろう。 袖から仕事用の針を抜き、静かに飛ばす。 「痛っ! 」 浪人が痛そうに飛び退いた。 子供がその隙に逃げる。見物客も多少の慈悲はあったのか、慌てたように退いて道を開けてやっていた。 是非こちらにも同じ対応をしてくれないだろうか。 騒動が少し落ち着いた頃、すぐに目的地へと向かった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加