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暖簾を潜り、中へと足を踏み入れる。
「……あそこね」
入ってすぐに角の部屋を見る。
そして周囲を警戒しながら羽織を脱いで、裏返した。裏生地は真っ黒で染まっている。
それを羽織り、紐で縛る。
出来た姿は黒装束の忍者。
束の間、どう知り得たのか天井の板を退かし、そこに頭と体を突っ込んだ。
そして音を一切立てることなく板を戻す。
天井裏に住み着いているネズミや黒光りに声を上げることも無く。
それどころか、埃まみれの中を這いずって目的地へと向かう。
だが数分もしないうちに進むのを止め、下に位置する部屋の様子を伺っているようだ。
十中八九、彼女の真下が目的地なのだろう。
気配を探れば、部屋には一人の男が居座っている。
観察を続けてかれこれ四半刻ほど経っているが、彼女と同様に男も動かない。
何より男に付くだろう遊女の気配がない。
もしかしたら、気づかれているのかもしれないと、一抹の不安を感じる。
案の定、その不安は確信に変わる。
「出てきなよ」
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