再会

3/11
前へ
/57ページ
次へ
気づかれていない可能性も捨てきれない。 ただ違和感を感じているだけで、世迷言を口にしてみただけのつもりだったら。 ここで安易に飛び出せば…… いや逆に、相手の意表を突くことにもなるか? 「天井に穴開けちゃおっかな」 随分とお気楽な声だ。 気配は完璧に消したはず。 今まで一度として悟られることは無かったというのに。 トンッと、畳に着地する彼女。 「へー、女かぁ」 あっけらかんと言う目の前の男に、彼女は興味無さげに突っ立っているだけ。 少々奇妙な状況であるが、両者とも隙があるようで無い。 「ねえ、まだ時間はあるでしょ?付き合ってよ」 そう言われ、盃を渡される。 何故、酒なんだ? 見たところ毒の類は入っていないみたいだが……。 それが逆に怪しい。 受け取らないでいると、腕を引かれ掌に置かれる。 盃から目の前の男に視線を移す。 相変わらず表情を崩さず、微笑んでいる。 読めない男だ。 表情を崩さず、というよりは一切の感情を持っていないようにも見える。 警戒心より、不気味さが増した。 それは、この男の誘いに乗ろうとしている自分自身もか。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加