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気づかれていない可能性も捨てきれない。
ただ違和感を感じているだけで、世迷言を口にしてみただけのつもりだったら。
ここで安易に飛び出せば……
いや逆に、相手の意表を突くことにもなるか?
「天井に穴開けちゃおっかな」
随分とお気楽な声だ。
気配は完璧に消したはず。
今まで一度として悟られることは無かったというのに。
トンッと、畳に着地する彼女。
「へー、女かぁ」
あっけらかんと言う目の前の男に、彼女は興味無さげに突っ立っているだけ。
少々奇妙な状況であるが、両者とも隙があるようで無い。
「ねえ、まだ時間はあるでしょ?付き合ってよ」
そう言われ、盃を渡される。
何故、酒なんだ?
見たところ毒の類は入っていないみたいだが……。
それが逆に怪しい。
受け取らないでいると、腕を引かれ掌に置かれる。
盃から目の前の男に視線を移す。
相変わらず表情を崩さず、微笑んでいる。
読めない男だ。
表情を崩さず、というよりは一切の感情を持っていないようにも見える。
警戒心より、不気味さが増した。
それは、この男の誘いに乗ろうとしている自分自身もか。
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