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「子の刻に現れては、赤い花を散らして消えていく。なんて、巷で話題だよ」
一瞬ちらりと此方に向いた視線は、夜空に浮かぶ満月に戻された。
探られるかと思いきや、その気は無いらしい。
もしくは掴まれているか。
「君のこと、気に入っちゃった」
色気を帯びた目。
貰った酒を口にしただけなのに、何が気に入ったと言うのだろうか。
珍妙なやつもいるものだ。憎らしい程の美形が台無しである。
あからさまに視線を逸らすと、すかさず男は仕掛けてきた。
あっという間に組み敷かれるが、彼女に慌てる様子はなく、冷えた眼差しを男に送っていた。
組み敷かれる寸前、苦無を男の首にあてがったのだ。
両者共々、決して引けを取らぬ体制。
「ふふっ。怖いね? 」
嘘をつけ。
作り飾られた笑みからは、焦りどころか、感情の一つも読み取れない。
「まあでも……君に殺されるならそれも良いかもね」
女を落とす言葉にしては少々狂気じみている気もするが。
もう子の刻、時間だ。
「──さよなら」
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