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儚い記憶
晴れだったか曇りだったか、奥底に沈められた曖昧な記憶。
けれど火花の如く咲くあの花だけは、はっきりと透けて見える。
「──。どうしたの? 」
そこには少年が一人。
自分の手にあるものをじっと見つめている。
しかしまたもや、霞んでしまってはっきりとは見えない横顔。
不思議に思ったのか、隣にいた少女は名を呼び、声をかけた。
「この花、そよかのほっぺに付いてる花と同じだね」
赤く咲き誇るその花に重なってか、振り向いた少年の顔が見れない。
「それ、彼岸花って言うの」
そう、あれは彼岸花。赤い彼岸花。
「うん、綺麗」
明るく澄んだ声が、たまらなく愛おしい……のに。
忘れてしまった、忘れたくなかった貴方の全て。
「違うよ?この花はね──」
貴方は誰なの──…
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