目を閉じて、100数えたら さようなら

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「ミチ、目閉じて100数えてよ」 「なんで?」 「多分もう、消えるから。なんか、嫌じゃん。消えてくの見られるの。だから、目閉じてて。その代わり、ずっと手繋いでるからさ。俺の最後のお願い」  寄せあった額が、軽く触れた。間近に見える達彦の瞳は、かすかに笑って私を見ていて「ほら、早く目ぇ瞑って」と私を急かすから、私は目を伏せた。 「タツは?」 「俺は、見てるよ。最後まで、ミチの事」 「なにそれ、狡い」 「狡くないよ。最後のお願いなんだから叶えてよ」  太陽の光は、瞼を透かして私の網膜を刺激する。その刺激は、達彦の影が私に落ちていることを光の強さで感じとるのに十分すぎるほどだった。私の手をぎゅっと握ってくれた達彦の手を離すまいと、私は力の限りにその手を握り返す。  達彦と付き合って2年。こんなにも必死に達彦の手を握ったことなんて、今までなかった。  16 17 18 19 ……心の中で、数字のカウントアップを続けていた。早く100まで数えて「まだ居るじゃん」と笑いたかった。  だけど、64まで数えた時に、握りしめていたはずの手の感触が忽然と消えていることに気がついた。
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