目を閉じて、100数えたら さようなら

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「なんだ。触れんじゃん」  私の手より一回り大きな達彦の手。見紛うことの無い男の人の手。少し骨っぽくて、少し乾いていて、固い皮膚の感触。それは、最後のお別れをしたその時よりも、ずっと柔らかく温かくて、私の隣で笑っていた頃と何ら変わらないように感じられた。 「触れんのかよ。だったら、もっと触っときゃ良かった。触ろうとして触れなかったら凹むじゃん。だから……触らないようにしてたんだけど」  苦笑いと一緒に変な言い訳をして、達彦の掌は私の頬をしっかりと包み込む。もう二度と触れることも叶わないと思っていた、その愛おしい温もりは、いとも簡単に私の心の中の堰を切ってしまう。 「タツ。そばに居てよ。タツが居なきゃご飯食べれないよ」 「だめだよ。早く嫌いになって、新しい奴見つけて、俺を安心させてよ」 「なんでそんな言い方するの。嫌いにならなくたっていいでしょ?」 「じゃあ、飯食えなくさせるような(ヤツ)の事なんか早く忘れて。俺、ミチには幸せになって欲しいんだから」  誰も叶えることが出来ないと分かりきっている我儘を口に出したら、ボロボロと情けないほどに涙が溢れてくる。もうとっくに、枯れるほどに泣いたと思っていたのに。  そんな私の涙を達彦の親指が拭って、その手は私の頬を離れて、私の手を握った。
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