目を閉じて、100数えたら さようなら

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「じゃあさ、ミチ会ってみてよ。持田と。俺抜きで」 「はぁ?」  本日2回目のガラの悪い返事をしてしまった私だが、そんな事は全く気にした様子もなく達彦は笑った。 「よし。決まり。じゃあ、俺行くね、また連絡するから」 「え、ちょっと待ってよ」  私、まだフラッペ飲み終えてないんだけど! 呼び止める私の声には全く耳を貸さずに、達彦は店を出て、駅ビルの雑踏の中に消えていった。 「うわー。めっちゃ自分勝手……」  唐突に呼び出して、言いたいことだけ言って消えてったよ、達彦の奴。  残された私は、フラッペを掬って口に運ぶ。キンとした氷の冷たさの中で香る、コーヒーの香り。舌に残るチョコレートの粒の感触。久しぶりに、物の味を味わって食べている気がした。  ここ一週間程は、お腹がすいた時にご飯を食べているだけだったから。達彦が居なかったら、気合を入れてご飯を作る意味が見いだせなかった。でも、お腹はすく。何も作りたくなかったし、食べたいものも無かったから、ただ炊いた白米をぼんやりしながら食べていた。  達彦は狡い。自分の言いたいことだけ言って、私を達彦と過ごした思い出ばかりの街中に置き去りにして。  街中をフラリと歩いてみれば、よく一緒に食べていたたい焼き屋さんに、達彦が好きだったラーメン屋さん、そのうち来ようねと話していた新しいカフェ……と、そこかしこに達彦との思い出が、色鮮やかなまま転がっていた。
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