百秒の関係

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 夫が体の異変を訴えたのは一年前の春先の事だった。朝、出勤の時間になっても、なかなか寝室から出て来ない夫の様子を見に行くと、夫はパジャマのままベッドの上で頭を抱えて唸り声を上げていた。 「ちょ、ちょっと、あなたどうしたの!」私は驚いてベッドの横に膝をついて夫の顔を覗き込んだ。 「……あ、頭が痛いんだ」夫はやっと言葉を絞り出した。 「あなた……しっかりして!」突然の出来事に私は状況を理解するのに数秒かかった。  尋常じゃない痛がり様だった。私は自分を落ち着かせながら震える手で救急車を呼んだ。救急車は思ったよりも早く到着して隊員は夫に声を掛けながら素早く頭を担架に固定した。あれよあれよと救急車は夫と私を乗せて、朝の静かな住宅街にけたたましいサイレンを鳴らしながら病院へと走った。  病院に着くと手際の良い連携プレーに訳がわからないまま右往左往し、あちらこちらと検査に回された。一通り検査が終わると夫はそのまま入院することになった。病室に入るとやっと鎮静剤の注射を打ってもらえて、見る間に痛みが引いて行く様子が夫の表情で分かった。夫の痛みが取れて、取り敢えずはホッとした。   
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