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私、あんまりイケメンに耐性が無いんだよなぁ…。 でも、“患者さん”としてなら、上手くやれる自信はある。 一瞬、言葉が詰まったものの、我に戻って会話を続ける。 「朝ご飯はどれくらい食べられましたかね。」 ベッドのオーバーテーブルにある、患者用の記録を覗きこんだ。 この記録用紙は、朝・昼・晩の体温を自分で計って記入してもらい、 毎日の食事量と排泄回数も記録をお願いしているものだ。 「8割くらい、食べられました。」 「夜はよく眠れてます?」 聞き取った内容を、自分のクリップボードに記録する。 「あまり……なかなか寝付けなくて、1時とか2時くらいにやっと寝るって感じです。」 「まだ環境に慣れないですよね。水野さんは急な入院でしたし。体の怠さとかはどうです?」 「抗生剤飲みはじめてからはだいぶ楽です。」 朝食後に飲んだと思われる薬の殻を回収して、用量等をチェックする。 うん、間違いはないな。 笑顔も無く、あまり抑揚の無い話し方をする彼の様子から、 多分打ち解けるにはもう少し時間が必要だろうなと感じた。 「もしかしたら今日、治療内容が決まって、追加のオーダーとかが出る、かもしれないですので。またお知らせしますね。」 いつもの営業スマイルで私は言う。 「じゃあ、また検温で来ますね。」 くるっとドアの方を向き、この場を離れようとした。 その時。
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