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『いつも悪いねぇ。』
エルドの妻達の中で唯一外に職場を持たない第四夫人が相変わらず領主仕事を代行する事が多い。
今日も今日とて帰宅すると、帝国の女性将校服に身を包むミラジオネが書類から見回りまでを済ませた旨の報告をしてくる。
『良いのよ貴方の頼みなら。』
私は一応旧ピクトラ帝国の皇女だからギルドにも加入しない、というのは口実でまともな家族構成を持てなかった幼少期の反動で夫とその家族のそばに居たい気持ちが強い。
帝国にいた頃にも一応の領主経験があるので重宝しているが、彼女にも何かと勝手を歯て欲しいとエルドは気に掛けている。
『その、何かしたい事はあるかな。』
また普段と同じ様な質問をしてくる夫にミラジオネは困ってしまう。近場には好きに出歩いているし、他の妻達の子を甘やかす程度には領主仕事の給金も貯まっている。
ふと、かつての部下の娘が最近言っていた言葉を思い出す。あれは自分の家にエルドの血が流れる事で浄化されるなど、やや心配な事を背中を流した際に言っていた。
『私はもう齢32だけど、平気かしら。』
へ?とエルドは何の事か分からない。しかし居合わせたセトナには理解出来た。
『すわ、出し抜かれた!』
ちょっとコッチに来てとセトナがミラジオネの他にクメシエナとフーミルを呼び、居間のソファーに座らせていく。
ふっふっふ、とようやく三十路らしくなったセトナが怪しく笑うと皇女をスッと指差す。
『三人目が欲しいってさ。』
ほーう?とクメシエナとフーミルも目付きを変える。ミラジオネは動じず、夫からの問いに答えたまでと言う。
『この私が老婆の齢になった頃合いを見計らうとは、流石は皇帝の血を繋ぐ魔女か。』
『レシルの武威に称えられるなど恐悦。』
あーこれは不味い予感がするとエルドが諦める中、それでと正妻は話を続ける。
『何人欲しい?』
『エルドに似た男子をもう一人。』
それなら齢40になる前に済むなぁ、とセトナが指を折っている。しかしクメシエナが待ったを掛ける。
『女子だったらどうする気です?』
『鋭いわねぇクメシエナさん。』
エルドは気にしていなくとも当人達は気にしているのだろう。幼きを除けば齢重ねる程に子を授かりし際の消耗甚だしく、抱く力すら欠く事もある。
だったら止せば良い物を、とは言えない気迫が彼女達にはある。
『セトナさんが不安ならお先にどうぞ。クメシエナさんとフーミルさんは二年遅れとすれば同時に身重になる事を避けられます。』
『なる程エルドさんが手ぶらになる期間が無くて済みますね。』
話はまとまったらしい。ミラジオネとセトナが先でクメシエナとフーミルが後。妻達が結ぶ義姉妹の契りに従い妾のクミラスとケネロルにも二人目まで養育費を割くという。
(分家の興し方を考えねばな。)
お互い気持ち良くやりましょうと握手をしている魔女達を見つつ、エルドは増えた後の人数を計算していた。
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