後日談3

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 エルドが訓練の約束をした相手は正妻セトナの次に炎帝を務めている青年である。一時的な代理を立てても良かったが、セトナは子供がある程度育ってから考えると言うのでギルドマスターが南部からメストレという火使いを連れてきた。  『遠方から来て頂き有り難い。』  南の支部から来た青年に負けじと本部からも炎帝への立候補が出たが、メストレはあっさりと勝ち上がり他の帝とギルドマスターの承認を経て炎帝となった。  エルドは旧友レギオスの紹介で十分な実力を持つ後継者が来てくれた事に謝意を示している。何か礼がしたいと聞けば、エルドと訓練をしてみたいという。  『セトナさん相手に二割は勝つと?』  『庭先での勝負に過ぎませんが。』  現役の帝でセトナ相手に勝ちを引けるのは水帝トリクのみで勝率四割程。なのに魔力が圧倒的に少ない夫のエルドが勝ちを引けるものかと、メストレは疑った。  それは初めての試合であっさりと晴れる。  (こんなの相手に八割勝つってのかよ。)  ちゃんとした礼だから真面目にやらなきゃ、とエルドが稀に見る誠実さで応じたのが不味かった。  始まった瞬間にエルドの踵が地下訓練室の床を蹴散らして石礫を放ち、襲いかかる粘土の腕と土の棘を焼き払いつつ土壁を砕いて避けた先で矛の一撃を喰らう。  『どわっ』  ぶつかるのは同じ訓練用の刃引き剣ながら、エルドの硬化魔法がメストレの火属性付加に勝った。  押し合いに移った所でメストレの剣が砕け、ぴたりと首に矛が当てられる。  『かなりの剛将ですね。』  『狭い所ならそう簡単には負けないよ。』  初戦で圧倒してみせたエルドだが、遠隔魔法で勝負するとメストレが有利となる。  そこでメストレの頼みとして一撃の度に距離を取る形で訓練をする事になった。今日とてエルドはそれに付き合い、淡々と折れた刃引き剣を量産している。  『今度は鬼火と共に突っ込みます。』  『あ、火の玉を追尾させるやつか。』  全方向から突っ込めば撃ち落とされまい、とメストレはおよそエルドの弱点を把握している。  しかし着弾する直前、エルドは襲い掛かる火魔法を全て土の腕で捉えて土の殻に包み、突っ込んでくるメストレに押し当てた。  『相手の魔力を一定量感知すると炸裂するんだったよね?』  封じた鬼火に土の腕から魔力を流しつつエルドは土壁で自身を囲った。直後、鬼火が炸裂して土の殻を撒き散らす。  『ぐえ』  飛び退いたメストレの手足を飛散した破片が斬りつけ、傷口から血が流れる。慌てて魔力を流して止血する炎帝相手にエルドは一言付け加える。  『殺り合いなら土の殻に毒を含ませる。』  『えげつねぇ…。』  そうじゃないと復活されるでしょ、とエルドはメストレが豊富な魔力で傷口をすぐに塞いでいるのを見ながら言う。  若い為か荒削りだが、メストレはエルドからモンスター以外を相手する際に必要とする知識を次々と吸収していた。
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