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バーを出た二人は、男が部屋をとっているというシティホテルへ向かうことにした。
歩いて10分弱の移動時間が待ちきれずに、佐伯は男を細い路地裏へ連れ込むとそのまま抱き寄せ、唇を軽く合わせて反応を見る。
ホテルの部屋に到着した後「本当に酒を楽しむだけのつもりで誘ったのに!」と、警察沙汰になってはかなわないからだ。
しかし男に拒否する様子はなく、一旦互いの体を離した佐伯の首元にするりと腕をまわして引き寄せると、キスを返してきた。
その口づけは深く、経験したことのない甘く溶かされるような淫靡な舌使いに目が眩む。
「ふうっ、すげぇ……完全に勃っちまった。俺は佐伯ってんだ。あんたの名前は?」
今まで派手に遊ぶ際になんの迷いもなく使用してきた偽りの名前が思い浮かばないほど、佐伯はもう目の前の男のことしか考えられなくなっていた。
すると男は濡れた厚い唇をゆっくりと動かし、
「……アズミ」
と、ベッドへ誘っているかのような甘い声で、偽りの名前を囁いたのである。
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