【01】真夜中の神社

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 閉店時間である午前0時までの勤務後に片付けや着替えを終え、気の合うバイト仲間たちと店の入り口横に置かれた自動販売機の近くで缶ジュースを片手に雑談していたので、時刻は午前1時近くになっている。  客の車がないため明るい時間帯に見るよりもはるかに広く感じられる駐車場を抜けた美智(みち)は、その出入り口が面しているA市の主要道路、居塚(いづか)街道の歩道を帰り始めた。  街道に沿って両側から等間隔に薄明るく照らす街灯の外側は、建物が少なくさらに深夜だということもあり暗闇が広がっている。  美智は高校時代に所属していた陸上部において最初は目立たない選手だったのだが、負けず嫌いな性格から毎日地道に努力を続けた結果、男子100mの代表選手として地元の有名な大会で新記録を出したという過去を持っていた。  そんな根性のある体育会系の好青年なのだが、細く引き締まった小柄な体格と大きな瞳をした童顔のため女性に間違えられることが非常に多かった。 「俺、もろに母ちゃん似だからなぁ。そう言えばトクシンヤでアルバイト面接を受けた時、一之瀬(いちのせ)店長が俺のことを女だと勘違いしてたんだっけ」  途中から面接に加わった一之瀬が、終了直前に美智は男だと気付いた時の慌てっぷりが頭の中によみがえって、暗い夜道を歩きながら思い出し笑いをしてしまう。  上層部から実力を認められ異例のスピード出世をしながらそれを鼻にかけず、社員、バイトに対して分け隔てなく真摯(しんし)に接すると現場でも人気のある一之瀬は、美智にとって憧れの存在であった。 「大学を卒業したらトクシンヤの正社員にしてくれないかなぁ。でも俺が今の店舗の勤務になるとは限らないし、一之瀬店長だって今後もっと出世して本社や他の店舗へ異動になっちゃったら一緒には働けないよなぁ……」
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