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驚きながらも聞き覚えのある声に振り返ると、トクシンヤの倉庫で命の危機を救ってくれた美しい青年が立っている。
黒いウィンドブレーカーとジーンズというラフな服装でありながら、伊達眼鏡があまり意味をなさない美貌と引き締まった抜群のスタイルによって、美智が見慣れた素朴な風景は一瞬にしてヨーロッパの洒落た田舎町へと変化していた。
「……あ!あなたは命の恩人さん!先日は本当にありがとうございました!」
と、美智が慌ててお辞儀をする。
「お怪我がなくてなによりでしたね」
「はい、あなたのおかげです!あの、新しくお見かけするお客様だと思っていたのですが、もしかしてこの町に引っ越して来たんですか?」
「いえ、A市は通り道になるのですが、初めて立ち寄ったトクシンヤのレジでお会いした貴方が忘れられなくて。それで翌日、再びお店へうかがった次第です」
「え!それじゃ助けてくれた夜は、わざわざ俺に会うためにトクシンヤまで来てたってことですか?」
一之瀬に想いを寄せている美智だが、現実離れした美青年から「貴方が忘れられずにまた会いに来た」と告げられたことにより、ロマンチックな恋愛映画の主人公のように心が揺れ動いてしまったのは無理もないだろう。
「ええ。実は貴方が、身近な人間に信じられないほどそっくりで驚いてしまったんです。それで二度目の夜は共通の知人を連れて立ち寄らせていただいたのですが、やはり彼も同じ感想を口にしていました」
ヒドウ自身は「恋人」と言いたかったのだが、上官であるアザミに指示された通りおとなしく「知人」と偽りながら補足した。
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