【01】真夜中の神社

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【01】真夜中の神社

 都心から離れた郊外に位置するA市は住宅よりも畑が占めている割合が多く、夜になると歩行者の姿はほとんど見られなくなる。  安くて広い土地が注目された時期もあったのだが「やはり都会に出るには遠すぎる」と若い層から徐々に離れていってしまい、それに伴いシャッターを下ろす店が続出した。  やがて月日が流れ、今さら他の土地へ引っ越すつもりもなく「欲しいものを気軽に買えない不便な生活だが、我慢するしかない」と、半ばあきらめて暮らしていた高齢者たちに朗報が飛び込んだ。  首都圏を中心に展開しているスーパーマーケット「トクシンヤ」が、高齢化社会を視野に入れて「今後の経営方針を検討する材料として、買い物が不便な地域へ実験店舗を作ってみたい」と、新規プロジェクトを立ちあげたところ「それならばぜひ我が町に!」と、A市が全面協力を申し出て誘致したのだ。  こうしてトクシンヤをメインとした複数の専門店で構成される便利なショッピングセンターがA市に誕生した。  そんなトクシンヤA市店の店長として本部から大抜擢されたのは、まだ28歳という若さでありながらプロジェクトの中心人物の一人でもある一之瀬(いちのせ)という男性であった。 「さて、帰ったら風呂入って少しゲームでもしようかな。眠っちゃうかも知れないけど」  トクシンヤA市店でアルバイトをしている大学生、日比谷美智(ひびやみち)の今日のシフトは遅番であった。
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