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【00】プロローグ
佐伯壮一は高級クラブで大金を惜しげもなく使って周囲からちやほやされるのが好きな男だが、今夜は独りでグラスを傾ける予定であった。
彼がナンバー2として所属する組織のリーダーから「しばらく派手な遊びは控えろ」と命令されたのがその理由だ。
現在まで警察に捕まらずにいられたのはリーダーの判断によるところが大きいと佐伯自身も認めているため「一時の我慢だ」と、不本意ながら今回もおとなしく従うことに決めたのである。
そこで走行記録が残るタクシーは使わずに一般人に紛れて電車を利用し、都会の喧騒から少し離れたある飲み屋街へと到着した。
やや古びた印象を与える原色の電飾看板やボロ提灯で狭い道路を両側から照らしながら、換気扇から排気される油で外壁が黒く汚れた焼き鳥屋や二階建ての集合店舗などが並んでいる。
この辺りは急激に変化した時代に取り残されてしまい、客足が遠のき寂れかけたこともあったのだが、最近になって昔ながらのレトロな雰囲気が逆に洒落ていると見直され、賑わいを取り戻しつつあった。
「まぁ今日使わなかった金は、次の遊びにまわせば盛り上がるか」
きらびやかなVIPルームで高級な酒と美女たちに囲まれた贅沢な時間を思い出しながら佐伯が歩いていると、チラチラと自分を見ている会社員らしき男たちに気付いた。
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