【03】クレープ・プレイ

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【03】クレープ・プレイ

「96」にすら教えていないアザミの自宅は、郊外に建てられた高級マンションの五階にあった。  誰にでも住める価格ではないが、都心に出やすい立地の良さに加えてセキュリティに特化した造りとなっており、充分な付加価値を備えている。  広さは2LDK。壁がたっぷりとした収納スペースになっているので、タンスは置いていない。  大きな寝室にはワイドキングサイズのベッドとサイドテーブル、もう一つの六畳間にはランニングマシンなどを置き、簡易ジムとして時折使用している。  かつてのアザミは住処(すみか)に安全性以外の執着がなく必要最低限のものしか置かなかったので、洒落たカウンターキッチンもある広々としたフローリングのリビングダイニングは、シンプルというよりは殺風景であった。  しかし、作戦を通じて愛し合うようになった班員ヒドウを唯一招き入れ、さらに同棲を始めたことにより、ここは居心地の良さと温かさを感じられるほどアザミにとって大切な場所へと変化したのである。    そして現在、午前0時。  寝室では、深いグレーの上質なガウンに身を包んだアザミが文庫本を読んでいた。  広いベッドの上で上半身を起こし、クッション代わりにもなる大きな枕に背をもたれかけさせてくつろいでいる。
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