第2ラウンド  "中二病"の老人

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 「それはね…」  苦笑いを消した大村が意外な事を告げた。  「村木さん、辞めるつもりだったんだけど、その気が無くなったんだって。何だか、誘われていた会社から断られたらしくてね」  俺はまた呆れた。  明らかな嘘である。それが分からないのか。  いや、大村は分かっているのだろう。  『辞めたい』と言っていた者が、僅か数日でその意を翻すのはおかしいだろう。  村木の『辞める』という発言は、俺を大村に連絡させ、8月のシフト表を催促させる手段であり、露骨な虚言に他ならない。  怒鳴り付けたい衝動に駆られたが、よく考えてみたら、俺もその嘘に騙された。  『辞める』と告げた村木に"白旗"を感じたのだ。  大村を怒鳴るのは少しおかしく思えた。  そこで、俺は最大の疑問を口にした。  「む、村木さんってて、ユニックスと”契約”しているる、んでですよね?」  「あっ、あれ、は…」  例の『週6日働かせる』というユニックスと村木の"契約"だ。そんなものがあるはずがない。  「あっ。ああれはは、た単なる、”口約束”ですかか?」  俺はわざと”助け舟”を出してやった。そうに決まっている。もし違うのなら、誰しもがそんな契約したい。  「…」  「な、なんで、そそんな約束をするん、んですか? みんな、そんなな約束して欲しいとと、お思うんすけどど…」  「…」  大村は弱々しく笑った。(察して欲しい)と言う事か。  「どう、ししてて、む村木さんだけけ、そんなに依怙贔屓き、されるる、んすか?」  これが最大の謎であり、この現場の”ネック”だ。  大村はやはり、苦笑いを浮かべて黙っている。  俺はそれが大村の”答え”に思えた。
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