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プロローグ
望楼への階段を駆け上がると四璧祭を破壊した業火の熱が俺を照らした。帝都の夜を赫く焦がす火災はすでに魔導院の大半を焼き尽くし街にまで溢れ出ようとしていた。人々の悲鳴や怒号、消火魔法の詠唱や延焼を防ぐ為に壊れかけた建物を撃つ砲撃の音がその地獄に華を添える。
見回すと予想通りそこにはヒビ割れた仮面を被った怪盗イコノクラスタが静かに立っていた。
「…これがあなたの望みなんですか?」
「悪い物語は壊され無ければならない」
「俺には悪い物語の続きに見えるけど…何処にも回収されない。ただ無意味に人が死んで行くだけ。違うんですか?」
「意味が有れば死んで良いのか?…違う!ただそんな意味の為に死んで欲しく無かっただけなんだ!だから僕はやる」
激した仮面の人物は腕を振り上げ手に持った古い魔動銃を夜空に翳した。
「やめろ!」
駆け寄ろうとする俺を結界が阻み知覚の罠にとらわれる。意志は前に進もうとするのに実際の俺は奇妙な舞踏を繰り返すのみなのだ。
「今宵は我輩のショウにようこそ。娑婆の紳士淑女の皆様から幽冥深き妖魔魔神の御方々まで…ただ今から古き舞台装置が逆さ回しを始めます。役者、裏方が慌てふためき振り落とされる喜劇を思う存分お楽しみ下さい…」
そう言うとその人物は深々と一礼し次に腕を大きく広げた。
俺の精気知覚に魔動銃のオーラが活性化し周囲に導火線が発火したかのようなイメージが走る。そこまで許してしまった自分に悔恨の念が募る…もっと上手くやれた筈なのに。
下から階段を駆け上がる仲間たちの足音を聞きながらこれから始まる血塗られた物語の結末を想像して俺は歯を食いしばった。
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