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プロローグ
ビルヴェンシアを魔物の跋扈する世界に変えてしまったのは、魔王リオンではなく、自らの意思を持った邪悪な魔石「魔業核」だった。倒したリオンの体からぬっと抜け出た魔業核は巨大な魔物と化し、勇者エデルたちに襲いかかった。リオンとの戦いで体力も魔力も消耗していたが、回復の薬を駆使し、ティナやミーシャ、ゴルトンたちと巧みな連携を取り、四人はついに元凶の魔業核を打ち滅ぼしたのだった。
「終わった……のか?」
呟くと同時に、エデルはその場に倒れてしまう。
「エデル!」
ティナはすぐさまエデルのもとに駆け寄り、その体を抱き寄せる。
「ありがとう。本当にありがとう。もうすぐお父様やお母様の魂も解放されると思うわ。そして、私も元の『神の娘』に戻ることができる」
しかし、それは同時に、ティナ・アーリストがエデル・アーリストの妹ではなくなってしまうということも意味していた。ティナが苦虫を噛み潰したような悲しみの表情を浮かべると、エデルはぷいと顔をそむけた。
「そして、俺は『神の娘』の力によって、地球に戻ることができる。強力な魔術で時を戻すことによって。俺が雪菜を守って死に、ビルヴェンシアに運ばれるその前の『俺』、つまり、『桜井優馬』としての『俺』に。でも、本当にそんなことができるのか?」
「たしかに、いくら『神の娘』とはいえ、世界の時間を戻すことはそんなに簡単なことではないわ。でも、これはせめてもの、エデルに対しての私の償いよ。勝手にビルヴェンシアに連れてきて、世界を救ってもらうことに強力してもらったんだもん。このくらいして当然よ」
「ありがとう、ティナ」
「それに、約束したでしょう?」
「ん?」
「エデルが地球で優馬に戻ったら、私たちは兄妹じゃなくなる。だから、結婚しようねって」
一瞬の間が空いた。それからエデルは繕ったような笑みを浮かべて言った。
「ああ。そうだな」
「約束だよ」
幸福そうな微笑みを浮かべ、ティナはエデルに小指を差し出した。さらに一瞬の間が空いた。そして、エデルもゆっくりと小指を出して、二人は指切りげんまんをした。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ♪」
地球では、互いの小指と小指を合わせて、約束を破ったら針千本を呑ませる恐ろしい風習がある、とエデルが冗談で言ったのを、ティナはもちろん覚えていた。
「ゆーびきったっ!」
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